<この記事のメリット>
この記事では以下のことがわかると思います。
・「定量的な情報を入れる」とはどういうことなのか
・「数値」を使う意義とは何か
・「自分の前提は他者の前提ではない」とはどういうことか
・結果の見せ方
・冗長な表現を避けるためには
・論理関係を明確にする
・熱い想いだらけの主観的な記述を避けるには
・「採用担当者にとって重要な情報」とは何か
・書いた文は「何のアピールになる」のか
次のような学生さんにおすすめです。
・ガクチカの文章構成がそもそもよくわからない
・熱い想いが先行しがち
・感想文になりがち
・数字の使い方がわからない
・文章が冗長だとよく言われる
・取り組み内容が抽象的になっている
- 1.設問と本文(添削1回目)
- ポイント①【ガクチカの全体像が掴みやすい冒頭の一文を】(要修正度★)
- ポイント②【数値情報の重要性】(要修正度★)
- ポイント③【その前提は読み手に共有されているか】(要修正度★★★)
- ポイント④【「内容」の詳細よりも「取り組みのプロセス」を】(要修正度★★★)
- ポイント⑤【冗長になっている】(要修正度★)
- ポイント⑥【主観的な表現】(要修正度★★★)
- ポイント⑦【読み手の知らない前提】(要修正度★)
- ポイント⑧【論理関係】(要修正度★)
- ポイント⑨【取り組みに関する記述が抽象的】(要修正度★★)
- ポイント⑩【提示した数値情報が表す意味】(要修正度★)
- ポイント⑪【前置きの必要性】(要修正度★★★)
- ポイント⑫【引用の必要性】(要修正度★★)
- ポイント⑬【身につけられた力(=強み)は何か】(要修正度★★)
- 2.添削(2回目)
1.設問と本文(添削1回目)
【設問】樋口くん(仮名)「ガクチカ」(400字)
【本文】
都内のスタジオを貸し切り、1つの映画をテーマとした映画イベントを開催した。特に思い出深いのは、ハリーポッターのイベントだ。ホグワーツ入学許可証を参加人数分製作し、自宅まで郵送した。更に、リアルクディッチというリアル脱出ゲームを自ら考案し、ゲストに映画の新たな楽しみ方を提供し続けた。しかし、集客面ではかなり難航した。150人が入れる会場を貸し切ったが、一週間前の予約が50人と思うように集客ができずにいた。そこで私は新規顧客へのアプローチ策として初心者マークを導入した。解説コーナーを設けて敷居を低くし、当日までに目標の150人に到達できた。結果、1日で86万円の売り上げを出した。当初は映画好きが気軽に集まれる憩いの場を提供する為に始めたイベントだったが、「期待以上のイベントだった、是非また来たい!」という声を聞くことで、常日頃から相手のニーズを分析し、期待以上のモノを提供するよう心掛けている。(400字)
以下、一文ずつコメントをしていきます。
◆都内のスタジオを貸し切り、1つの映画をテーマとした映画イベントを開催した。
ポイント①【ガクチカの全体像が掴みやすい冒頭の一文を】(要修正度★)
・「都内のスタジオを貸し切り 、1つの映画をテーマとした映画イベントを開催した」だけでも取り組んだ内容を一言で簡潔に言い切っているのでシンプルで良いのですが、「具体的にどのように頑張り、どのような結果を出したのか」について簡潔な一言があるとより良いかと思います。
・これだけでは樋口くんが取り組んだことの「事実」を述べただけですが、同じ事実を述べるにしても、「運営リーダーとして周囲を巻き込みながらSNSによる宣伝の強化に尽力し、集客率が前年比30%上昇した。」などと書くと具体的な冒頭の一文になりますよね。
・具体的に「何を」「どのように」頑張ったのかを入れると読み手はガクチカの全体像を冒頭で把握することができ、理解しやすくなると思います。
ポイント②【数値情報の重要性】(要修正度★)
・「都内の」は必要でしょうか。樋口くんのイベントが都内で開催されたのか、大阪で開催されたのか、福岡で開催されたのかは読み手に取ってそれほど重要な問題ではないような気がします。
・ここでは「150人が収容可能な施設(orスタジオ)を貸し切り、」と述べた方が、数量的な情報によって、読み手は樋口くんの取り組みの「規模感」をイメージできることになります。
・「都内のスタジオだからすごい!」というわけではないですよね。
・例えば、「都内の50人収容可能施設を貸し切りにした」より「3万人が収容可能な埼玉の西武球場を貸し切りにした」の方が規模感は大きいわけですから、重要なのは「場所」ではなく、「数量的な情報」です。数値で示されることで、読み手にもイメージしやすい客観的な記述になります。
◆特に思い出深いのは、ハリーポッターのイベントだ。ホグワーツ入学許可証を参加人数分製作し、自宅まで郵送した。更に、リアルクディッチというリアル脱出ゲームを自ら考案し、ゲストに映画の新たな楽しみ方を提供し続けた。
ポイント③【その前提は読み手に共有されているか】(要修正度★★★)
・次の文章を読んでみてください。
・「特に思い出深いのは、ラコーンタイのイベントだ。ハヌマンとトッサガンの試合入場券を来場者人数分製作し、自宅まで郵送した。更にリアルコーンタイというリアル脱出ゲームを自ら考案し、ゲストに映画の新たな楽しみ方を提供し続けた。」
・知らない単語がいくつも並んでいますが、果たしてこのような「固有名詞」は読み手にとって本当に重要な情報なのかについて再考してみる必要があると思います。
・樋口くんは今、読み手が当然「ハリーポッターのような大ヒット映画の内容を完全に把握している」という前提に立ってこのガクチカを書いています。
・もちろん、読み手がハリーポッターの内容をよく知っている可能性もあります。
・しかし、必ずしも1回ハリーポッターを見ただけで、作中に登場する学校名やスポーツの名前まで確実に覚えているとは限りません。
・代案としては「作中に登場する学園の入学許可証を〜」「作中で行われるスポーツ大会をモチーフに考案したリアル脱出ゲームを〜」などが考えられます。
・そもそも400字しかないガクチカの中で、あえて作中の固有名詞を記述する必要性があるのか、それにより、樋口くんのどんな「強み」をアピールすることになるのか、今一度その意義を検討してください。
・あえて作中の固有名詞を記述する必要性があるのか、すなわち、樋口くんの自己PRにつながる情報/読み手にとって樋口くんを採用するメリットにつながる情報であるのか、考えてみましょう。
ポイント④【「内容」の詳細よりも「取り組みのプロセス」を】(要修正度★★★)
・「特に思い出深いのは、」は、ESに本当に必要な表現であるのか検討が必要です。
・ESは樋口くんの思い出を回想する場ではなく、「樋口くんがどんなことに取り組み、何を成し遂げ、そこからどのような力を手に入れたのか、そして、それは企業に入社後、どのような事業や職種でどのように発揮されるのか)」書く場です。
・したがって、ESではその取り組みが樋口くんにとって「良い思い出」であるかどうかは読み手にとっては重要ではないのです(樋口くんにとって思い出深いのはよくわかりますし、それ自体はとてもいいことなのですが…)。
・それよりも、「なぜ樋口くんはそれに取り組もうと思ったのか」「何を成し遂げたくてそれを頑張ったのか」が気になります(それは字数の関係もあるので必ずしも書かなければならないというわけではありませんが)。
・仮に樋口くんがテニス部の部長で、新入部員を面接により選抜するとします。
・Aさんは「私は小学校時代にクラスメイトと校内のテニスコートで一緒に夜遅くまでテニスの練習をしたのがとてもいい思い出なので、中学でも高校でもテニスを続けており、入部を希望しました」と言い、Bさんは「私はテニスは未経験ですが、子供の時からバドミントンをしており、毎日2時間の筋トレと自主練、毎週土日の練習試合に参加することで、高校の時に県大会で1位になりました。体力とスポーツに根気強く取り組む力はあるので、この力は未経験のテニスでも活かせると考えています」と言いました。
・樋口くんは経験者のAさんをとりますか、未経験者のBさんをとりますか。
・Aさんの方がテニスに対する思い入れは深いでしょう。ですが、思い出を語られても、Aさんがどう頑張ってくれ、どうテニス部に貢献してくれるのかはさっぱりわからないのです。
・採用担当者が聞きたいのは、「どんなイベントだったか」(=内容)よりも、「どのようにそのイベントの準備をし、問題を乗り越え、結果を出したのか」(=一連のプロセス)だと思います。
◆「しかし、集客面ではかなり難航した。150人が入れる会場を貸し切ったが、一週間前の予約が50人と思うように集客ができずにいた。」
ポイント⑤【冗長になっている】(要修正度★)
・ここが樋口くんの一連のガクチカの中で直面した問題ですよね。冒頭でガクチカの全体像を一言で言い切ったあとは、「現状」とその「問題点」(つまりこの部分)を述べてしまった方が簡潔になる気がしました。
・400字しかないので、上記のハリーポッターの内容を書いてしまうと、後半部分で樋口くんの具体的な取り組み事項を書く字数が足りなくなります。
・「しかし、集客面ではかなり難航した。150人が入れる会場を貸し切ったが、~」とわざわざ言わなくても、冒頭で「150人規模のスタジオでの映画イベントの運営に尽力した。」と言っておくのはいかがでしょうか。
・ここでは「開催1週間前の時点での予約が50人しかいないという問題に直面した。」と言うだけでかなりすっきりする気がします。
ポイント⑥【主観的な表現】(要修正度★★★)
・「かなり」や「思うように」は主観的な表現なので、お勧めしません。
・「150人」を「かなり」と捉える人もいる人もいれば、「30人」でも「かなり」と捉える人もおり、読み手によってイメージする規模が変わるからです。
◆「そこで私は新規顧客へのアプローチ策として初心者マークを導入した。解説コーナーを設けて敷居を低くし、当日までに目標の150人に到達できた。」
ポイント⑦【読み手の知らない前提】(要修正度★)
・「初心者マークを導入」というのは「自分にとっては当たり前のことを読み手も既知の情報」のように記述しています。
・本来、「初心者マーク」自体は車に貼るマークで、転じて、一般的に何かを行う際に初心者にも始めやすいようなサービスの事を指していると思います。
・わからなくはないですが、それは樋口くんのイベントで、そのようなサービスを「初心者マーク」と呼んだのだと思います。しかし、急に「初心者マークを導入した」と言われても、読み手にとっては唐突感があるように感じます。
・樋口くんが自分たちの集団の中で用いた特定の用語を用いるのではなく、「映画に馴染みのない人にも楽しんでもらえるように映画の解説コーナーを設けた。」など丁寧に説明するのはいかがでしょうか。
ポイント⑧【論理関係】(要修正度★)
・細かいことですが、「(ハリーポッターの)映画に馴染みのない人に対する解説コーナーを設けて参加の敷居を低くする」→「集客が上がる」という因果関係は本当に成立するのでしょうか。
・ハリーポッターに興味のない人が、初心者向けの解説コーナーがあるからという理由で来場を決めるものでしょうか。他にも来場理由があったり、来場を促すような取り組みがあったりしたのではないかなと気になりました。
ポイント⑨【取り組みに関する記述が抽象的】(要修正度★★)
・おそらく、樋口くんが来場者数を増やすための取り組みを色々していたと思います。
・その取り組みの一連のプロセスこそ採用担当者は聞きたいところのはずなのに、前半のハリーポッターの催しの説明や、この後に続く「当初は映画好きが気軽に集まれる憩いの場を提供する為に始めたイベントだったが、「期待以上のイベントだった、是非また来たい!」という声を聞くことで、~」という樋口くんの感想によって字数がひっ迫しています。
・力を入れて取り組んだ内容こそ伝えたいはずなのに、そこが「初心者マークを導入した。解説コーナーを設けて敷居を低くし、当日までに目標の150人に到達できた。」という1行で書かれているだけで抽象的になっています。
・前半や後半で重要でない情報が冗長になっているため、肝心な部分が抽象的で説明不足になっています。
◆「結果、1日で86万円の売り上げを出した。」
ポイント⑩【提示した数値情報が表す意味】(要修正度★)
・86万円は大金ですが、仮に他の就活生のESで映画イベントの売り上げが200万円だったと書かれていたら、樋口くんの成果はかすみます。
・86万円がなぜ記述に値する成果であるのかということを判断できるのに十分な前提や基準を書いていないからです。
・数値をただ使えばいいのではなく、なぜその数値を使うと効果的なのかを考える必要があります。
・繰り返しになりますが、「全国大会2位になった」と言われても、マイナースポーツでそもそも参加校が3校しかいない全国大会だったら2位は真ん中ですよね。
・「売り上げが20%増加した」と言われても、「100円が120円になった」のか、「1億円が1億2000万円になったのか」は母数を述べなければ「20%」だけではわからないのです。
・このように、何のためにその数字を使うのか、その数字はどれほど意味のあることなのかを示すための前提や判断基準を記述していなければ、ただなんとなく「数字を入れた方がいい」というESのルールみたいなものにしたがっただけで、その本質を理解していないことになります。
・例えば、「同じイベントを前年に行った時は150人のスタジオで70人の集客があり、売り上げが40万だったが、今年は私が行った~という取り組みの効果があり、集客も売り上げも2倍になった」というように書けば、86万円という数値情報の持つ意味が明確になります。
◆「当初は映画好きが気軽に集まれる憩いの場を提供する為に始めたイベントだったが、「期待以上のイベントだった、是非また来たい!」という声を聞くことで、常日頃から相手のニーズを分析し、期待以上のモノを提供するよう心掛けている。」
ポイント⑪【前置きの必要性】(要修正度★★★)
・「当初は映画好きが気軽に集まれる憩いの場を提供する為に始めたイベントだったが、~」という「前置き」は必要でしょうか。何かのアピールになっているのであれば良いですが、読み手にとってはあまり重要な情報ではない気がします。
・樋口くんがテニス部の部長で、新入部員の面接を行う時に、たとえそれが事実であっても、「適当に家の裏の壁で壁打ちしていたらおもしろくなったので遊び半分で始めたテニスです」と言われたら(きっかけは人それぞれだとしても)、がっかりしませんか。
・書いた文が表す情報が、
①「最終的にあなたの力=強みにつながる(採用担当者があなたを採用するメリットの根拠につながる)」
②「その前提を共有しなければ採用担当者があなたの取り組みをイメージできない」
のいずれにも該当しない場合は、それは記述するに値する情報なのかどうか再検討した方が良いかと思います。
ポイント⑫【引用の必要性】(要修正度★★)
・周囲から褒められたという引用表現をガクチカの成果として入れるのはお勧めしません。
・「観客から最高の演技だと言われた」「こんなに素敵な音楽は初めて聴いたと褒められた」「今までで一番感動したと言われた」という引用表現は、確かに、周囲からの評価を記述し、客観的でよさそうな気がします。
・しかし、この引用表現からは、具体的にどのような成果を得て、この経験から何ができるようになり、どのような力を身につけたのかはわからないままです。
ポイント⑬【身につけられた力(=強み)は何か】(要修正度★★)
・ガクチカの結びは、上記の一連の経験から何ができるようになったのか(そして、それは志望動機に記述する「その力は入社後どのような事業のどのような職種や業務で役立てられるのか」)ということを書くことをお勧めします。
・その方が、「自己PR」や「志望動機」の設問で書く「強み」の伏線になりますし、ES全体が一貫性のある記述になる効果があると思います。
2.添削(2回目)
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